アートで先端科学を表現。難解な科学もアートでみれば、身近な存在となる
2016年の秋、東京大学の田中宏幸教授、イタリアのNapoli Federico Ⅱ大学のPaolo Strolin教授から科学にアートを取り入れた教育を一緒にしないかとの提案を受けました。
非常に興味を覚え、早速、一緒に活動していただけそうな研究者の先生方に話をし、数名の先生方から賛同を得ることができました。
絵画の中島裕司博士始め、現在各分野で活躍中のアーティストの方々にも呼び掛けて活動をスタートすることができました。
サイエンスは人類には欠かせないものですが、現在のサイエンスは高度になり過ぎて若者のサイエンス離れが起きています。この現象は日本だけでなく欧州でも同様な傾向にあります。
その一方で、近年、プロジェクトマッピングやバーチャルリアリティーなど、最新科学技術を利用したサイエンスアートが注目されています。
難解だと敬遠されがちなサイエンスをアートの力で身近な親しみやすいものとして表現する、これが私たちの取り組みです。
私たちは最先端科学としてミュオグラフィを取り上げました。
ミュオグラフィ新型装置
薩摩硫黄島のミュオグラフィ像
ミュオグラフィという聞きなれない言葉に最初は戸惑った人々も、ミュオグラフィの原理から観測限界までの正しい理解をアートの力によって得ることができます。
アーティスト自身、その制作過程において、ミュオグラフィへの理解を深めていきます。
しかし、その活動費の捻出に苦労しています。ほとんどがアーティストの持ち出しです。そこで、この度クラウドファンディングを利用して、一般の方々からの支援をお願いすることにしました。支援いただくのは、展示会会場費、交通費、案内葉書・チラシ・ポスター等の宣伝費、画材費、パンフレット・図録費などです。
私たちは、2017年から画家中島裕司博士(芸術)を核にミュオグラフィ絵画の創作活動に入りました。これは、中島博士の代表作です。
「火山とミュオン」F30 中島裕司作 2017年
東京大学田中宏幸先生が2006年に薩摩硫黄島を世界に先駆けて
透視することができた実測デジタル画像をモチーフに油絵で描いた作品
中島裕司博士(芸術)
サイエンスアートの魅力は、最近の科学は奥が深すぎて少し専門から離れると理解できないところがあるのに対して、アートは見た瞬間に感動と興味を生むことができることです。
しかし、一般の若いアーティストの参加者はなかなか集まらず困っていました。 そのような時に、大学のY先生から若手のヤングアーティスト(理系、文系の学生)をたくさん紹介していただきました。
現在高校生を含め8人の学生がこの取り組みに参加しています。
私たちの活動紹介
私たちは、関西大学の林武文先生、東京大学田中宏幸先生のミュオグラフィアートプロジェクトに協力して、油絵、水墨画、書などの分野でサイエンス支援活動をしています。
また、超高精細のデジタル画像をパソコンでも見ることができる方法、名画鑑賞方法のイノベーションの活動も行っています。
これらの活動を通じて、サイエンスへの興味を喚起し、サイエンスの正しい理解を深めてもらいたいと思っています。
「黄色い渦の中の火山」F50 中島裕司作 2017年
ミュオグラフィは巨大物体(火山)を透視できます。
そしてマグマだまりの様子も観察できます。
近い将来、火山の爆発予知も可能に。
2017年度は、9月、10月にグランフロント大阪ナレッジキャピタルですべてのミュオグラフィアートを一挙公開しました。これらのイベントを通して2017年度は約2万人の方々にミュオグラフィアートに触れていただきました。
学生も7名のヤングアーティスト(写真は5名)として加わりました。
また、ミュオグラフィアートプロジェクトのホームページやFacebookも開設し、多くの方々にミュオグラフィとそのアートを知っていただくことに努めました。
その後、2018年5月に岡山国際美術研究所で地方展示会を開催しました。
2018年5月、6月には、多摩美術大学美術館での学術展示会「宇宙(そら)に訊ねよ」に協力展示しました。
現在さらに多くのアーティストに加わっていただき、油絵、ルミアート、陶芸、京鹿の子絞、ディンプルアート、抽象画、水彩画、書道、 アールブリュット 、ミュオグラフィ・クッキーなど多くのアーティストがミュオグラフィアートに挑戦することになりました。2018年7月10から15日まで大阪市の茶臼山画廊で「宇宙からの贈物」と題してその成果作品の展示をしました。
さらに、2018年9月22日から26日まで、兵庫県政150周年記念事業の一環として「水墨画とミュオグラフィアートとのコラボレーション」の展示会を行います。
(2018.7時点)
プロ作家: |
学生アーティスト: |
中島裕司(絵画) |
畑美沙樹(絵画) |
Sara Steigerwald(デジタルアート) |
仁司朋花(絵画) |
向山和子(水墨画) |
村岡あず実(絵画) |
澤田利光(陶芸) |
大曽初音(絵画) |
松田美津雄(京鹿の子締) |
大塚晴乃(絵画) |
Hiro(ディンプルアート) |
小阪美咲(絵画) |
西田マコ(抽象画アート) |
西口桃(絵画) |
橋本浩子(絵画) |
早瀬ゆりあ(絵画) |
林ゆかり(水彩画) |
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堀井文夫(絵画) |
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谷村暎子(ビーズ) |
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北川清仁(詩) |
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中島幸佑(アールブリュット) |
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角谷華仙(書) |
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もりともえ(ミュオグラフィ・クッキー) |
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サイエンスアートに関与するようになって最高にやりがいを感じたり、心踊る嬉しい瞬間は、ヤングアーティストがミュオグラフィアートに興味を持ってくれ、実際油絵を描きながら難解なミュオグラフィを少しづつ理解してくれたことです。
逆に、 最も辛かったことは、ある展示会で、「サイエンスとアートは次元が違う、こんな取り組みは意味がない。」と理知的な年配の方から詰め寄られたことです。
また、資金がなくて、イベント活動を十分にできないことも困っていることのひとつです。
今後、今の活動を発展させながら、その活動をベースに初期の目的である「科学にアートを取り入れた教育活動」にもかかわっていきたいと思っています。
巨大物体内部を透視!ミュオグラフィって何?
ミュオグラフィとは、宇宙に存在するミュオンという素粒子を使って、巨大物体の内部を透視できるX線撮影のような科学技術です。具体的には、火山内部を透視することで、火山噴火や地震の予測ができ原発内部の核融合材料の存在が観測できます。さらにピラミッドや古墳にも適用でき、考古学の研究にも寄与できます。
根源的に重要なものである想像(そうぞう)から創造(そうぞう)へ両者相まって進むことによって、難しいサイエンスもアートの面白さや感動で一般的に浸透するようになります。そのように願っています。
ミュオグラフィの測定原理をデジタルアートで表現したのが、Sara Steigerwaldさんのデジタルアートです。
サラ・スタイゲルバルドSara Steigerwald 「ミュオンの検知器を表現したデジタルアート」
優れたサイエンスアートを社会に発信することにより、多くの若者がサイエンスの興味を持ち、優秀な学生がサイエンスの分野に入ってきていただきたいと願っています。
サイエンスアートの可能性
サイエンスアートは、一般大衆にとって、無味乾燥な科学をアートの面白さや人間の素朴な感情に訴える作品を通じて、人類にとって非常に重要な科学の世界に興味を思ってもらい、そのおもしろさや重要性を理解してもらうことができます。半面、科学の面白さをアートに反映させることで、両者相まって発展して人類の幸福につながることが期待されます。
このミュオグラフィアートは、測定対象を3Dイリュジョンと油絵で表現しています。ミュオグラフィは、ミュオンという“目”で火山、ピラミッド、古墳などの内部を透視できます。ミュオグラフィの応用展開はまさにこれからです。
「ミュオグラフィの応用」F50 中島裕司&ノーマンD.クック共同制作 2017年
最近のサイエンスはあまりにも高度に発展しており、正しく理解しようとする意欲がわかないことがあります。人によってはあまり興味を持たれないこともあります。また、サイエンスとアートは対極にあるイメージがあって、両者の関係が一般的に分かりにくいことがあります。アートは感性や感動が重視されますが、この感性や感動がサイエンスを志す大きなモーティベーションになります。
私たちは、サイエンスアートを導入したいかなる分野であれ物事の初めは警戒され無視されるのが常でありますが、アートとサイエンス(今回はミュオグラフィ)はともに人間の幸福にとっては大切なものとなると願っています。
「宇宙からの贈物」F20 畑美沙樹 2017年制作
ミュオグラフィに用いられるミュオンは宇宙から降り注ぎ、
通常では見えない巨大物体の中の情報を私たちのもとにも届けられます。
まさに、「宇宙からの贈物」です。
挑戦者の自己紹介
角谷賢二
所属:国際美術研究所
役職:所長、理学博士
元関西大学シニアURA、非常勤講師
元日立マクセル株式会社取締役CTO
Keiko Uesugiさん
面白い取組です。応援しています。