重粒子線治療について

ご支援ありがとうございます。大変励みになります。徳島大学の森田明典です。

8月上旬に本学の定期試験期間が終了しましたが、9月になると再試験や後期授業の準備が始まります。8月末までの今の時期は、落ち着いて論文執筆に取り組める好機です。

今、執筆している論文は、当研究室で取り組んでいるp53制御剤の重粒子線に対する防護活性評価に関する報告です。「重粒子線治療」というがんの治療法をご存知でしょうか。がん保険の特約で「先進医療特約」として勧められた経験がある方もいらっしゃるのではないかと思います。

X線やγ線による放射線治療では、光子のエネルギーを高めることにより、浅い深度でのエネルギー付与を低減させ、皮膚障害を減らすことができますが、より深部の腫瘍組織へのエネルギー分布については、腫瘍の前後の組織にも障害を与えてしまうため、コンピュータの助けを借りて多方向から照射することによって正常組織の照射線量を抑えています。

重粒子線の場合は、飛程の終端で高エネルギーを付与する性質があるため、粒子線束のエネルギーを上手く調節すると深部の腫瘍組織に高いエネルギーを付与することができます。そのため、X線やγ線よりも、良好な線量分布が得られることが粒子線の特徴です。しかしながら、重粒子線治療においても腫瘍と接する正常組織の障害が投与する総線量を制限しています。また、大きな加速器が必要となるため、稼働施設が少なく、より多くの患者様に提供するためにさまざまな取り組みがなされています。

その一つが「寡分割照射」と呼ばれる照射法（治療計画）になります。この照射法は、分割照射回数（通院回数）を減らせ、多くの患者様に重粒子線治療を提供できる方法になりますが、がんを根治するためには総線量（通常50〜70 Gy）は大きく減らせず、一回あたりの線量は増大します。そのため分割回数を減らしすぎると急性障害による副作用のリスクが増してしまいます。

我々は、重粒子線治療の正常組織障害のリスクを低減するため、当研究室のp53制御剤の防護活性評価に取り組んでいます。この研究は、本プロジェクトの応援者でもある放射線医学総合研究所の王先生らの研究グループとの共同研究であり、東京理科大学薬学部の青木先生から化合物をご提供いただいて実施しました。

詳細は、現在執筆中の論文に譲りますが、p53阻害剤であるバナデートは炭素線による骨髄抑制に有効であること、p53調節剤である5CHQは炭素線による腸障害に有効であることが明らかとなりました。重粒子線治療の普及に貢献する研究として、本研究を推進して参ります。

本研究に対するご支援をよろしくお願いいたします。