p53制御剤について〜その3

徳島大学の森田明典です。前回に引き続きp53制御剤についてご説明いたします。

「リスク臓器」を護るための「放射線防護剤」として、私たちが今、注目しているのは「p53調節剤」とよばれるタイプの放射線防護剤です。

実はp53には、造血器系の細胞にアポトーシスとよばれる細胞の自死を促進する遺伝子を活性化する機能だけではなく、非造血器系の細胞では、放射線によって核内のDNAが傷ついた細胞の分裂増殖を抑え、生じたDNA損傷を修復するための時間的余裕をもたらす増殖遅延遺伝子を活性化する働きもあるのです。

この造血器系と非造血系におけるp53の役割の違いのメカニズムはまだ詳しく解明されておりませんが、p53は、細胞を「殺す」遺伝子と、細胞を「生かす」遺伝子の両方を活性化する支配的な分子として機能しており、細胞の運命を決める「ゲノムの守護神」としてはたらいています。

p53制御剤の1つである「p53調節剤」は、p53が有する「細胞を生かす」遺伝子の活性化を促進する画期的な放射線防護剤です。将来応用として、正常組織の選択的防護による有害反応の抑制がもたらす1回照射線量の増大、および分割照射回数の減少を目指しています。現在の標準的療法では、平日5回の照射を7週続ける治療計画が普及していますが、本研究の進展により、通院回数が減らせ、放射線が有する抗腫瘍効果が最適化される医療が実現することを期待しています。

本研究で見出されたp53調節剤5-クロロ-8-キノリノールは、米国癌学会誌Molecular Cancer Therapeutics誌2018年2月号において、 “Refining Radiation for the Next Century”という解説記事と共に紹介され、次世代医療として期待される正常組織防護剤として海外でも注目されています。本研究に対するご支援をよろしくお願いいたします。