放射線防護剤について〜その1

皆さま、応援をいただきありがとうございます。徳島大学の森田明典です。本日は、放射線防護剤について説明したいと思います。

放射線防護剤の開発は、第二次世界大戦後から本格化しました。広島・長崎では、原子爆弾がもたらす人体障害として、爆風・熱線だけでなく、放射線による障害を伴うことが明らかとなりました。その後の東西冷戦体制の中、双方の核の傘を強化しようと核開発競争が激化し、その脅威を軽減する対策として放射線防護剤開発も進められました。

放射線による障害の発生メカニズムについてご理解いただくため、前回、直接作用、間接作用のご説明をしました。放射線による電離は10^-15秒、生じたラジカルが分子と反応するのは10^-6秒以内と、まさに一瞬の反応です。放射線によって生じたラジカルがDNAを傷つけるのは、中心距離にして半径2 nm内のラジカルとなり、ラジカル消去活性を持った化合物は、予めそこに存在していなければなりません（事前投与が前提）。

1950年前後に、放射線による間接作用で生じるラジカルや活性酸素の消去に有効な化合物として、L-システインやシステアミンが発見されました。下図に示したようにチオール基（-SH基）が含まれていることが特徴です。水中で分子全体が中性のL-システインよりも、陽イオンとなるシステアミンの方が少ない投与量で放射線防護活性を示したことから、負に帯電しているDNAに、システアミンの方が近づきやすいのではないかという説が生まれました。