放射線について

徳島大学の森田明典です。本日は、放射線について説明したいと思います。

皆さんの「放射線」のイメージは、どのようなものでしょうか？　X線撮影による診断や放射線によるがん治療といった医療応用だけでなく、東日本大震災による福島原発事故や、広島、長崎、第五福竜丸における原子爆弾による被ばくをイメージされる方もいらっしゃると思います。X線撮影による診断では、X線の「透過性」が組織によって異なる性質が応用され、体内の病変を発見するために用いられています。また、がん治療や原子爆弾は放射線の「殺細胞作用」が応用された端的な例であり、使い方によって放射線が薬にも毒にもなることを示しています。

X線よりも波長が長く，細胞に毒性を示す電磁波として紫外線があります。紫外線は、水や瞳のようにある程度紫外線を通してしまう物もありますが、日傘や衣類の様な薄い生地でも防げる点でX線と比べ、透過性に大きな違いがあります。そのため、人体に対する影響は、紫外線では、日焼け、皮膚がん、白内障など、皮膚や眼の疾患に限定されるのに対し、放射線の影響は、人体内の広範な組織に及びます。

また、X線は電離作用が強くDNA鎖を切断する作用がありますが、非電離放射線に分類される紫外線はDNA鎖を切断する作用よりもDNA鎖中の塩基を化学的に修飾してしまう励起作用が顕著です。特に隣り合う塩基と結合してピリミジンダイマーとよばれる塩基二量体が形成されます。ヒトの場合、これを除去する「ヌクレオチド除去修復」という機構が備わっており、DNAを紫外線による損傷から護ると同時に、プロビタミンDからビタミンDの変換に紫外線のエネルギーを利用するなど巧みに役立てています。

一方、放射線によるエネルギーを細胞が有効利用する生理現象は今のところ見つかっていません。分子を電離して破壊してしまう作用のため細胞も有効利用しにくかったのかもしれません。科学の進歩によりヒトとして放射線を診断やがん治療等に有効利用できるようになったのは、まだ歴史は浅く19世紀末からになります。

放射線がもつ、DNA鎖を傷つける作用に話を戻します。

この作用は、放射線が直接DNA鎖を傷つける「直接作用」と、放射線のエネルギーが近傍の水などの分子を電離や励起して生成したラジカルや活性酸素種などがDNA鎖を傷つける「間接作用」に大別されます。この作用の違いは、放射線防護剤の作用メカニズムを理解する上で重要です。また次回、詳しく説明いたします。