「おいしい」と「味覚」の違い(クラウドファンディングを終えて。vol.2)
味覚障害研究の堤先生へのインタビュー、3部構成の第2回目です。
(下記より、敬称略)
---なるほど、ではクラウドファンディングの当初の目的は達成されたようですね。
堤)はい。まずは、うま味成分の効果は確認できました。次はうま味以外にも味覚の改善に有効な成分を見つけたいと思っています。
うま味成分の効果を得るために、うま味の多く入っているふりかけを作成しました。一般の方でもおいしく食べられるふりかけです。
ふりかけは、クラウドファンディングのお礼の手紙とともに支援者の方にお送りさせて頂きました。
現在までに、全国15施設で味覚障害の患者さんにふりかけを提供し、アンケートなどをとっています。また、味覚障害者の方からのニーズが凄く多いことを実感しています。
ふりかけをかける場合と、かけない場合とを比較すると、ふりかけをかけた場合は舌のうま味受容体遺伝子が減らないというデータが出るのですが、これをうま味だけの効果と言っていいのかはわかっていません。
というのも副次的なメリットとして、ふりかけをかけると食べられるご飯の量が増えてくるので、治療中に食事が減らない方が多いのです。
化学療法中にごはんが食べられないことが大きな問題なので、食事の量が増えることで目に見えて本人がごはんを食べられるというのと、味覚受容体の量が変わらないことというのがふりかけのメリットだと考えています。
なぜうま味成分の1つであるグルタミン酸が、抗がん剤治療による味覚障害の原因である、味覚受容体の減少を止めるのかという点について分かっていませんので、光るメダカを用いてそのメカニズムを明らかにしたいと思っています。
そして今後は実験を行える環境が整った上で、うま味以外の原因を探し出して、また商品開発に繋げられたらと思います。
今まで味覚障害は、「治療が終わったら治る」と思われていて、治療の間は我慢して食べさせる、食べられなかったら食事と一緒に経口摂取できる栄養補助食品を提供するという対処しかできませんでした。
患者さんからすると味覚障害の苦しみが分かってもらえませんでした。
今後は、ふりかけのようにもっと食べられるものを増やす、つまり選択肢を増やせたらと思います。
また、味覚障害以外の患者さんでも、ごはんが食べられないという問題を持つ方もいます。理由としては、においに過敏だったり、吐き気がひどかったりということがあります。
がん患者さんの「食べられない」という問題はまだまだ課題が山積みです。
---少し違いますが、私も昔、歯の手術で一週間ほど入院して流動食を経験したことがあり、食事がおいしくないのでかなり苦痛でした。初日に、あとこれが一週間続くのかと考えると、絶望的な気分になりました(笑)。なのでおいしく食べられるというのは凄く必要なことだと思います。
堤)入院中って食べることが唯一の楽しみという人も多いので、それがおいしく食べられないのはとても可哀そうです。
朝の食事を乗り越えたらと思ったら、今度は昼の食事を心配しなければならず、楽しみであるはずの食事が苦行のような存在になってしまうことがあります。わたしたち栄養士はそのストレスを減らしてあげたいと思っています。
がん患者さんの食事についての本では少量ずつ色々なものを作るように、という内容が書かれたものがあるので、奥さんが頑張って10種類ぐらいの小鉢を毎食作っていたケースがありましたが、患者さんであるご主人からすると、食べなければという重圧になったり、せっかくの愛情こもったたくさんの食事を食べられないことに自分が嫌になる場合もあります。栄養補助食品や、このふりかけのようにシンプルにして食べられる方がお互い楽な気持ちになることもあります。
---療養となると長くなりますよね。
堤)そうなんですよ。化学療法中の患者さんに栄養サポートで良かったことを聞くと、「夫婦喧嘩が無くなったこと」と言っていました。
がん治療中の味覚障害用のふりかけを他の理由で味覚障害になっている患者さんにも適用できればいいのですが、糖尿病の味覚障害の患者さんは逆に食べ過ぎが味覚障害に影響していることがあります。こうした味覚障害の方にはふりかけだと逆に食事の摂取量を増やしてしまうので逆効果です。
---なるほど。うま味成分を摂れば摂るほど味蕾細胞が増えてよりおいしいと感じるようになるのですか?
堤)いやそうとも言えなくて。
実際にさきほど言ったような味覚障害がゆえにもっと味が濃いものをたくさん食べる、という人は味覚受容体遺伝子も増えますが、おいしいとは感じていません。
---高エネルギーなものを摂ると受容体が増えるということでしょうか?
堤)そこまでは、まだわかっていないです。
健常者の場合と神経障害がある人などの場合ではまた別で、レプチンなどのホルモンや神経障害との関係も考えています。
---味覚っていろんなものが関わっているのですね。
堤)そうですね、複雑なんです。「おいしい」と「味覚」はまた別の話になります。
「おいしい」は見た目とか匂い、食事を摂る環境や自分の今までの歴史など様々なものが関わっていて複雑です。
「味覚障害でもおいしく」ということを目標として、人生の最期のときまで楽しくおいしく食べられるようにサポートしていきたいと思っています。
---病気を治すということが今まで一番と考えられていましたが、今では生活の質を上げるという点の重要性もまた見直されているのですね。
堤)本当にそうだと思います。
〇次回は、クラウドファンディング後の反響や支援金の使い道などのお話を掲載いたします。
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