みなさんは、ヤケドやキズを負ったり、手術をしたりした後のきずあとが、赤く盛り上がったりした経験はありますか?
通常は一時的なことが多く、次第に目立たなくなり、赤みや痛み・かゆみといった症状も治まってくると思います。
しかし、一部のケロイドになりやすい体質の方たちは、きずあとが治っていかない場合があります。
むしろ赤みと盛り上がりの範囲が広がっていき、より見た目にもひどくなってしまいます。
出典:瘢痕・ケロイド治療ジャーナル, 全日本病院出版社,N0.9, 15ページ, 2015
痛みとかゆみで眠れない。
衣服で擦れると痛い。
運動したりお風呂に入るとかゆくなる。
冬に乾燥するとチクチク痛む。
ケロイド患者さんは日々こういった症状に悩まされています。
ケロイドに効く薬として、一般的にステロイドが使われています。
それがあれば十分じゃないかと思われるかもしれませんが、ステロイドには、皮膚が茶色になったり、薄くなったりするなどの副作用があります。また局所に注射をする場合、非常に「痛い」ことが知られています。
現状では、効果のある治療薬はステロイドの注射薬と外用薬しかありません。
また、ケロイドがどのように発生するのか、明確なメカニズムは未だわかっていません。
私たちはケロイド発症メカニズムを共同で研究しています。
そして将来的に創薬の一助となる研究成果を目指すことで、ケロイドに苦しむ患者さんに、希望を持ってもらいたいと思っています。
研究のスタート
生まれも育ちも徳島で、徳島大学医学部を卒業した私(峯田)は、故郷の地域医療に貢献したいという思いから、現在は徳島大学病院で働いています。
これまで形成外科医として外傷や熱傷の患者さんを多く診てきました。
『きずあと』がケロイドになってしまった患者さんの中には、痛みやかゆみに悩まされて、日常生活に支障を来す方もいます。
具体的な例をあげると、若い患者さんでは、ピアスを開けたところに起こるケロイドで耳の形が大きく変形し、見た目に関してとても悩まれているケースがあります。
胸や肩にできた小さいニキビや手術後の縫合部からケロイドが発生し、強い痛みやかゆみがあり、見た目にもすごく悩まれていて、当科を受診される方もいます。
また、形成外科の治療体制が整っていない地域では、キズに対する適切な処置が遅れて、ケロイドの発生を助長してしまうケースもあります。
そういったかゆみや痛みを伴い、赤く盛り上がり、見た目も悪い「きずあと」であるケロイドの治療を受けた患者さんに、
『服が擦れても痛くなくなりました。ありがとうございます。』
『お風呂で温まっても、かゆくならなくなりました。ありがとうございます。』
『治療法はないとあきらめていたのに、もっと早くこちらで治療を受けたかったです。』
『痛痒さがなくなって熟睡できるようになりました。』
といった言葉をいただくと、ケロイドに対する治療や研究に対する意欲が湧いてきます。
しかし、形成外科は、整形外科と混同されるなど、世間一般の認知度はまだまだ十分ではありません。
ケロイドの痛みやかゆみ、見た目に悩んだり、治療法はないと諦めている患者さんがまだまだ徳島県に多くいらっしゃると思っています。
そういった患者さんの力になることはできないかと考えていました。
形成外科の道に進み10年が過ぎたころ、高校の同級生だった佐藤先生と、同じ徳島大学の教員として働くことになり、いっしょに研究できるといいねという話になりました。
佐藤先生の専門分野を聞いてみると、細胞にストレッチ(引張り)を与えて,その際の応答を評価するというのがメインテーマとのこと。
ケロイドの発症には患部の細胞が呼吸などにより引っ張られることで起こるという報告もあり、細胞が引っ張られるとなると、共同研究はケロイドの研究がうってつけだという考えに至りました。
研究の方法とその進捗
すぐに意気投合し、2016年10月から医工連携の共同研究が始まりました。
佐藤先生は、1つの細胞を引っ張り、それをミリ秒単位で観察することができる「細胞伸展マイクロデバイス」を開発・所有しています。
その装置を使うことで、ヒトの呼吸による皮膚の動きを再現する実験が可能になりました。
患者さんから提供して頂いたケロイドを用いて培養した線維芽細胞に、繰り返しストレッチを与えてカルシウムシグナルの応答を検証しました。
※線維芽細胞・・・皮膚が傷ついたとき、それを治すためにコラーゲンなどの真皮の成分を生み出す細胞
実験は部屋を真っ暗にして行われています。
しかし、研究は順風満帆には進みません。
なかなか進まない研究
研究は、まずケロイドの手術をした患者さんから組織を提供して頂いて、それを培養して実験に用います。
細胞の分離と培養は、細菌による汚染などに十分気を付けないと、せっかく提供して頂いた組織が無駄になってしまうため、慎重に扱わなければならず、かなり気を使います。
細胞にストレッチを与える柔軟なシートは、シリコーンゴムでできているのですが,シリコーンゴムは一般的に細胞がくっつきにくいです。
そこに接着を促すタンパク質をコーティングして細胞を接着させます。
しかし、あるとき今まで接着していた細胞がくっつかなくなったことがありました。
原因はすぐにはわかりません。
必死に原因を調べた結果、何気なく変更した培地が原因であることが判明しました。
ちょっとした培地成分の違いでシリコーンゴムシートに細胞が接着しなくなっていたようでした。
※培地・・・細胞を培養するのに必要な様々な栄養成分を含む溶液
やっと研究が再開できたと思ったら、しばらくするとまた細胞が接着しなくなってしまいました。今度は原因がなかなかわかりません。
研究を中断し、様々な検証を重ねること3か月。
ようやく原因を突き止めることができました。
それは、実験のための細胞への前処理で使用している試薬に、ある一つの成分が入っているか、いないかだけの違いでした。
ケアレスミスと言ってしまえばそれまでです。
しかし、うまくいかなくなった場合の原因究明はいつも手間と時間がかかってしまいます。
研究で判明したこと
実験活動を続けていくことで、わかったことがあります。
それは、細胞を引っ張ったときに、ケロイド由来の線維芽細胞は正常の細胞よりも、カルシウムシグナルの応答率が高く、さらに正常細胞と細胞応答を比較すると、ケロイド由来の線維芽細胞内のカルシウムイオン濃度が異常に高くなる細胞が存在することをつきとめました。
つまり、ケロイド由来の線維芽細胞の中には、ストレッチ刺激に対して、病的なカルシウムシグナル応答を示す細胞が存在し、その細胞たちはケロイド体質に特異的なもので、ケロイドの発生に深く関わっているのではないかという仮説にいきつきました。
次のステージへ
今後は、ケロイド由来の線維芽細胞にみられるカルシウムシグナルの病的応答が、どのようなメカニズムで引き起こされているのかを検証していかないといけません。
そのためには、現在使用している個々の細胞を評価するのに適した細胞伸展マイクロデバイスだけではなく、遺伝子やタンパク質発現を調べるための新たな装置が必要になります。
遺伝子やタンパク質の解析に必要な長時間ストレッチ稼働できる装置(佐藤先生作)
細胞伸展装置は研究室の学生さんが理工学部の機械工場で一つ一つアルミニウムの板から切り出して作る品なので、個体によっては動作性能が不良なものがあり、装置の供給が追いつかない時期もありました。
支援が必要な理由
市販の大型細胞伸展装置は、200万円程度と高価なので、現在は佐藤先生に手作りで装置を作成してもらい、実験に使用しています。十分な研究費が得られれば、今後購入したいと考えていますが、その他に回さないといけない試薬や消耗品で手一杯の状態です。
また、病的応答のメカニズムの解明には、遺伝子やタンパク質の解析が必要不可欠ですが、高額の試薬が複数必要であるため、研究費の捻出に苦労しています。
したがって、今回のクラウドファンディングで研究費の援助を頂けたら、今後は研究第二ステージを加速させ、画期的な研究成果を出せるようにしたいと思っています。
最後に~プロジェクトにかける思い~
まだまだ研究半ばの段階ではありますが、この先研究を持続、さらに発展させていくことができれば、ケロイドの発症メカニズムやケロイド体質の本質を明らかにし、将来的に創薬に役立てたいと思っています。
ただ、昨今研究費の獲得が難しく、競争的資金に頼らざる負えない状況であります。現在はなんとか最低限の資金確保はできていますが、今後予定している数十万単位のタンパク質解析などに回す資金的余裕はありません。
そこで研究を発展させ、ケロイドを治療する薬剤開発につなげるために、皆様のお力を貸して頂けますよう、どうかよろしくお願いいたします。
徳島大学への寄付と税制について
- 国立大学法人徳島大学へのご寄付につきましては、個人からの寄付では所得税の所得控除、住民税(徳島県と県内市町村が条例で指定する寄付金として)の所得控除、法人からの寄付では法人税の損金算入が認められます。
- 個人からのご寄付
徳島大学に寄付金を支出した場合は、所得控除制度が適用され、(総所得金額の40%を上限とした寄付金額)から2,000円を差し引いた額が課税所得から控除されます。
実際の税控除額は前記の控除額に各人の税率を乗じたものになります。
個人住民税については、(寄付金(総所得額の30%が限度)-2,000円)×10%が寄付控除額となります。
10%の内訳は、都道府県が指定した寄付金が4%、市町村が指定した寄付金が6%となっています。
ご寄付された翌年の確定申告期間に所轄税務署で確定申告手続きを行う必要があります。その際に、徳島大学が発行する『寄付金領収書』が必要になります。
住民税の控除適用のみを受けようとする方は、『寄付金領収書』を添えてお住まいの市町村へ「都道府県民税・市町村民税控除申告」を行ってください。
- 法人からのご寄付
法人からのご寄付につきましては、寄付金額全額が当該事業年度の損金に算入されます。
この寄付金による損金算入は、徳島大学が発行する『寄付金領収書』で手続きができます。
振込によるご寄附について
このプロジェクトはクレジットカード決済以外に銀行、郵便振込によるご寄附も受け付けています。
入金確認のための支援者様の振込名義などをお知らせいただく必要があります。銀行、郵便振込によるご寄附の場合は必ずご記入をお願いいたします。
≪手順≫
①リターンのコースを選択し、「寄附するボタン」を押してください。
金額を確認し、配送先住所の入力を終えると、振込で支援するかカードで決済するかを選択できます。
表示される画面に従い、次の事項を入力してください。
振込先、口座番号等は申し込みをいただいたのち、支援者様に自動返信メールにて連絡します。
・振込名義人のお名前
・金額
・寄附コースの名称
・領収書などの送付先住所、電話番号、メールアドレス
②ご注意事項
・振込に際しては振込手数料のご負担をお願いいたします。
・カード決済でご利用できるのは、VISA・MASTERのみとなっております。
クラウドファンディング挑戦者
峯田 一秀 |
徳島大学 大学院医歯薬学研究部 医学域医科学部門形成外科学 助教
生まれも育ちも徳島、徳島大学医学部医学科を2004年に卒業後、高知赤十字病院での初期臨床研修を終えて、徳島大学医学部形成外科に入局しました。後期レジデントとして松山赤十字病院や高知赤十字病院に出向したり、大学院生として東京大学で研究に従事し、2014年に博士号を取得しました。そして、故郷で地域医療に貢献しようという思いから徳島に戻り、徳島大学医学部形成外科で主に診療と研究を行っています。
大学病院では、専門外来として、ケロイド外来と美容外来を担当しており、皮膚悪性腫瘍や顔面骨骨折、唇顎口蓋裂などの小児先天異常なども担当しています。 形成外科を選択したきっかけは、初期臨床研修のときに、恩師にあたる形成外科医の綺麗な皮膚縫合を見て、『きずあと』に対する考え方に共感したからです。
佐藤先生とは高校時代の同級生で、プライベートでの親交はありましたが、こうして仕事でもタッグを組んで共同研究できることに、喜びを感じています。
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佐藤 克也 |
徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 理工学域機械科学系知能機械学分野 講師
徳島生まれ,高校生まで徳島で育ちました。大学は神戸大学部工学部機械工学科へ進学し,同大学院を修了後、博士号を取得しました。山口大学工学部機械工学科の助教を経て,2009年から徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部(当時)の講師として生まれ故郷の徳島に戻ってきました。
峯田先生とは高校時代、同じクラスの同級生でした。実は,私の母が峯田先生の中学1年時のクラス担任だったのです。徳島あるあるの一つ。なんという世間の狭さでしょうか。高校でクラスが一緒になった際にも,峯田先生のことは母から聞いており,すぐに友だちになりました。
大学での専門分野は細胞バイオメカニクスです。機械工学というと,自動車や航空機,ロボットなどがパッと思い浮かぶと思います。機械でバイオ?とイメージしにくいと思いますが,機械工学で用いる各種力学の知識を生かして生体を理解し,その医療応用を目指す分野です。
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挑戦者の自己紹介
EAさん
小さい頃からケロイドに悩まされていました。少しでもお役に立てればと思います。よい成果を期待しています!